エッセイ みどりの丘 〜くらしに「ありがとう」〜

施設長 大塚美智子が綴ります

嬉しくてルンルン

vol.01

福島より宅急便が届いた
「ホームページを見ました。」
短いコメントに笑顔のイラスト
送ってくれたのは古新聞
どこかで、誰かが応援している
「世の中、捨てたもんじゃないね」
ちびまる子の声が聞こえてきそうだ
小さな1歩は5000日を超え
これからも途切れることはない
コツコツ続けることが
応援してくれる方へのありがとう
小さな宅急便から
大きな勇気を頂いた  
嬉しくて  ルンルン (^^♪

能登半島地震

vol.02

お正月に襲った能登半島地震
ライフラインが絶たれた過酷な避難生活
復旧が進まない
繰り返されてきた災害の経験が
なぜ活かされないのか
心配と悲しみを覚える
何が起きても終わりにできない
コロナ発生時の施設の苦悩とオーバーラップする
どうか行政のみなさん、専門家のみなさん
知恵と力を貸して下さい
何かあった時、何かができること
それが危機管理では
困っている時、助けになるように導く
それが行政の役割では

白いいちご

vol.03


スーパーで見かける白いいちご
高級フルーツだ
見ているが、買う物ではない
昼食を見て目を疑った
白と赤のいちごが並んでいる
今日のデザートだ
まさか施設の食事に並ぶとは
見ている物から、食べる物になった
スーパーで見ていた高級フルーツが
入居者様の口に入った
「美味しいね」
そりゃそうだ

温かい手

vol.04

お話を伺いながら手を握ることは多い
「あなたの手は温かいわね」
そこからお話がはずむことも
ほとんどの場合、入居者様の手は冷たい
しかしその方の手は温かかった
しっかり手を握りながらお話を伺う
するとお隣の方が教えて下さった
「さっきまでねこの人、その手を口に入れていたのよ
それで温かいのよ」
「えっ」
思わず手を引っ込めた


長寿日本一の街

vol.05

麻生区が男女ともに長寿日本一の街になった
ライバルはお隣の横浜市青葉区
ここ数年は上位を争う
どちらも環境がよく空気がきれい
アップダウンの坂が多く足腰が鍛えられる
健康に関心のある人が住む
長寿の街の施設としてどうあるべきか
ご家族都合ではなく、ご本人が行きたくて利用する
そんなショートステイにしたい
それが「スマイル・ステイ」
年齢を重ねても、介護が必要になっても
やりたいことがあり、やりたいことができる
そんな施設にしたい
それが「みどりの丘」
長寿日本一の街の施設として高齢者の希望でありたい


三越のお子様ランチ

vol.06

施設の食事は旬の物、季節を考え作られる
子どもの日には
エビフライとほたてフライ
つけ合わせはナポリタン
ピラフとそら豆のポタージュ
鯉の形のゼリーつき
三越のお子様ランチのクオリティは高く
その美味しさが評判になる
大人も食べたくなるほど
みどりの丘のお子様ランチは
お年寄りが食べる
その味は三越にも引けを取らない
空っぽのお皿が証明している

ポテト名人

vol.07

ジャガイモを育てることになった
カルビーポテトチップスの袋に植える
見た目の可愛さはインスタ映えだ
プランターにも植える
「お芋さんはね、こうして半分に切るのだよ」
種芋を半分に切ると、すかさず
「灰はないの?灰をまぶすと根腐れしないのだよ」
「あんた、良く知っているね」
「うちが農家だからね」
名人登場で作業は思いのほかスムーズに
「蒸かして食べたいね」
「塩をふってね」
「バターもほしいね」
「じゃあ牛も育てなくては」
笑いが広がる


友よ

vol.08

「僕の友はまだ来ないの?」
看取りが始まりご本人よりタバコが吸いたいと
長男様が購入したのはお気に入りだった紺のピース缶
「これ、これ」
缶を開け、強烈な匂いが懐かしい
一服、二服でむせる。
「もう、いい」久しぶりの体が拒む
翌日になると「吸いたい」、「もう、いい」この繰り返し
一緒につき合ってくれるスタッフはいつの間にか友になり
出勤を心待ちにするようになった
「お友達が出勤してきましたよ。」
「お、来たか」
片手を挙げ笑顔になった


心配する人、心配される人

vol.09

「足が痛いの? 大丈夫?」
 フロアに行くたびに声がかかる
 だまし、だましやってきたが
 痛い足をかばう歩き方は不自然そのもの
 入居者様が心配してくれる
 車椅子の方も心配してくれる
 とうとう心配される人になってしまった
 万事休す
 ボランティアさんの紹介で塗山正宏先生を知る
 名医との出会いで治療に踏み切ることにした
 もう心配しないで下さいね
 食べ物やおしゃれのこと、ニュースやお天気のこと
 普通におしゃべりがしたい
 心配されずに

一の肥やしは主人の足跡

vol.10

師匠と仰いだ方に教えて頂いた
その一言が胸に響き教訓となる
自分はまだ修行が足りぬと反省する
99歳を目の前にお元気がなくなり
一日のほとんどを寝て過ごされる
ご家族様は看取りを希望された
お話を伺う機会は減り
教えを乞うことはできないが
人生のしまい方を
学ぶことになるであろう
師匠であることに変わりはない

会いたくても会えない

vol.11

コロナが5類になって1年が経過した
施設にとってはまだ脅威だ
発症があると他のフロアとの行き来ができなくなる
感染力を考えると仕方ないこと
同じ施設に暮らすご夫妻が会えない
その日は奥様の89歳のお誕生日
会いたくても会えない
スタッフは奥様の動画を撮り届けた
食い入るように画面を見ながら涙した
本当は手を握って差し上げたかったはず
お話が出来ない奥様の手を
ごめんなさい
もう少しだけお待ち下さいね

私たちのSDGs

vol.12

おむつはビニール袋を使わず新聞紙に包む
清掃はペーパーではなくボロ布を使う
「小さな1歩」はやがて脱炭素活動として評価され
環境大臣賞を頂いた
しかし肝心なことが残っていた
それはおむつの削減
介護施設では無理と諦めていた
「やりましょう」
背中を押してくれたのはスタッフ
見直しが行われ、おむつから布パンツへ
次々と名前が挙がるが人数は問題ではない
大切なのは生活の質をあげること
数字や成果を問うのではない
人の生き方を問う
これが私たちのSDGsのやり方である

開設して14年目を迎えた

vol.10

施設と言えば「大変なお年寄りばかりがいるのでしょ」
そんな声が聞こえてきそう
いえ、いえ皆さんはご存知ないだけ
80年、90年の人生を全うする名人が暮らすところ
それは立派な仕事をしてきたかではない
それは地位や肩書があるかではない
ポテト名人がいるように、料理名人、営業名人
真面目名人、経理名人、手先器用名人、おしゃべり名人
どんなことでもやり遂げてきた
最後までやり続けてきた
名人への道のりは果てしなく遠いけど
今の私たちに出来ることは
目の前の小さなことを、誠実に丁寧に行うこと
今日の行いが未来の答えになることを胸に刻もう

施設長  大塚美智子
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