エッセイ みどりの丘 〜くらしに「ありがとう」〜

副施設長 大塚美智子が綴ります

101歳の先生ふるさとへ行く

vol.01

97歳でこの物語に登場された先生は101歳となり
今もお元気でご自身の足で歩く
生活には強いこだわりがある
お手伝いされることは好まない
ご自分のペースが乱されてしまうのが嫌と言われる
心配はよけいなお世話、手を出すと払いのけられる
自分のことは自分で、おっしゃることはごもっとも
正論であり、教えである

寒さが緩んできた4月の朝、「急いで支度しなくては。」
朝食もそこそこにご自身で身支度を整え
息子様ご一家と長野に里帰りをされた
お帰りになってから故郷の話は口にしなかった
すっかり様変わりした故郷に先生は何を思ったのでしょう

副施設長 大塚

府中競馬へ

vol.02

外出レクの行き先が競馬場ときいたときは驚いた
今までもいろいろな企画があり
ずいぶん慣れっこになっているが
今度は競馬ですか・・・
「昔よく行った府中競馬場へ行きたい」
男性入居者様の強い希望らしい
運転手さんとスタッフと合わせて6名が
初めて府中競馬場へ、遠足気分で出かけて行った

馬券は社会勉強として一人1枚ずつ購入されたよう
50年ぶりに行く人、生まれて初めて行く人

何より驚いたのは食べたお昼ご飯
「蕎麦とネギトロ丼のセット」と「唐揚げ定食」
競馬場の食堂でガッツリ食べたらしい
思わぬ外出は身も心も若者に負けないパワーとなった

人生,最後のお引越し

vol.03

みどりの丘では入居される日を
人生最後のお引越しと呼んでいる
朝からお出迎えの準備をし、拍手の練習までしている
エレベーターが開くとパチパチ、拍手が沸く
花道の真ん中を歩いて頂く
これから一緒に暮らす音成さんが引越して来た
迎える方はみんな笑顔だ
ご本人は恥ずかしそうに照れている
ご家族様にも歩いて頂く
出迎えの理由を伝えると感激の涙を流される
数多くある施設の中で
様々な人生を歩んできた人が
出会うことは奇跡に近い

「とってもいい所だから安心してね。」
かつて自分が言われた言葉を
今度は伝える番だ
人生最後のお引越しをして今、ここにいる

移動パン屋さん

vol.04

毎週火曜日の昼下がり
玄関前に一台のミドリ色の軽自動車が止まる
荷台をあければ たちまちそこはパン屋さんになる
すぐに長い行列ができる
いつも定番を買う人
前の人が買っているパンを見ながら迷いに迷ってしまう人
チーズパンやソーセージパンなど今時のパンを買う人
お好きなパンをどうぞ
ただし一つだけ、がここの決まりです

もっと買いたい
大丈夫 また来週も来ますよ

猫ちゃんの奇跡

vol.05

102歳を前に食事が食べられなくなった
日に日に衰弱が目立つようになった
ご家族は入院を望んでいなかった
何度もお聞きしているが今回も考えに変わりはなかった
看取りがスタートした

ご家族から「山田屋のお饅頭」が届けられた
食べやすく餡のところだけを水に溶いてスプーンで一口
もう一口、「おいしい。」と笑みがこぼれた

この冬、世間ではインフルエンザA型が大流行した
流行の波はご家族様も襲い
面会ができなくなった
お誕生日を迎えるのは無理かもしれない
祈るような日々が続いた

「おばあちゃんだ可愛がっていた猫がいるのですが。」
と離れて住むお孫様から相談があった
ペットの面会はお部屋ではできない
こんな時はできないことよりできることを考えなくては
ゲージに入れて頂ければ大丈夫
誰も気がつかないように、こっそりと

猫ちゃんの面会の日、布団から手を長〜く伸ばし
何度も、何度も毛をなでぬくもりを確かめた
ほとんど閉眼ばかりだった目が開き、笑ってくれた

お誕生日の日、家族から贈られたカードから流れるオルゴールが
♪ ハッピー バースデイ トゥ ユー ♫ とお祝いを伝えた

ご家族の回復を待っていたかのような
静かな静かな旅立ちだった
それは猫ちゃんが起こした奇跡だったのかみsれない

愛する人へ

vol.06

愛する人と出会い
人は夫婦となり 家族となる
やがて子供たちは巣立ち 家族から夫婦に戻る

仕事も終えこれからは夫婦二人でゆっくり歳を重ねていこう
穏やかな日々がつづくことを願う
しかし思ってもいないことが起きる
それは病気であったり
介護で必要になったり

愛する人が病に倒れたとき
家では生活ができなくなったとき
家族だけではどうすることもできなくなったとき

どうか絶望しないでほしい
家での生活とは違ってしまうかもしれないが
家族と一緒に生活できなくなってしまうかもしれないが
暮らしをつづけていく場所がある
介護をしてくれる人がいる
そこはとてもきれい
ホテルのようとみんなが言う
そして何よりそこに暮らしている人はみんな笑顔だ

それがみどりの丘です

あななたちは天使です

vol.07

それは突然の別れだった
夜中に心肺停止状態で発見された
すぐに病院に搬送されご家族様もかけつけた
死因は動脈瘤破裂、ほぼ即死状態
と医師から説明された

数日後ご家族様が荷物の引き取りにやって来た
「あなたたちは天使です。本当に感謝しています。」
と男性スタッフを前に涙ながらにお礼を言って下さる
えっ天使?
天使って、羽の生えたあの可愛い天使だよね・・・
目の前のスタッフはおっさんずラブみたいなのに・・・
よく考えると、こんなにありがたい言葉はない
世間では一生言われない言葉

この言葉に支えられ
彼等は天使の心を持った介護をこれからも行うだろう

名前は知りませんが

vol.08

ご家族様がスタッフの名前を知らないことは多い
顔は知っているが名前はわからない関係性だ
「あのメガネをかけて男の人」
「髪の毛を一つに結わいている女の人」
「少し太った人」
なんて容姿から言われる
名前はわからなくてもご家族様はよくご存知です

介護は正直者が損をしないところ
まじめにコツコツが通じるのが介護

一番大事なのはまじめにコツコツが通じない現場を
作ってはいけないことです

時の流れ

vol.09

開設から今年で9年目
ずいぶん月日が経った
					
昨年はオープンからいらした方の退去が相次いだ
長いあいだご一緒していたから
最初のドタバタを見守っていてくれたから
別れはつらかった
気がつけば残っていらっしゃるのは数人
ずいぶん別れを重ねてきた

入居されていた方の顔ぶれは変わったが
ご家族さまの知り合いやご近所の方が入居されている
ボランティアで活動されていた方が
デイやショートを利用されている
「いつか みどりの丘にいれてね」
「じゃあ 私も一緒に入るから」
と冗談で言っていたことが現実になった

それはすごく嬉しいこと
いい時も、そうでない時も
同じ地域で暮らしたい
人との繫がりに中で生活したい

この地域に建つ施設として役に立ちたい
ずっと そう思ってきた
時のながれにより人は変わるけど
また新たな出会いがある

働くものたちよ、ふたたび

vol.10

今まで一番大切にしてきたことは
「信頼」だと思う
信頼なんて言うとかっこよく聞こえるが
実際はむずかしい
裏切られたと涙したことも多い

しかしよく考えれば信頼は
これから起こることに対しての思いなので
期待していた結果と違っただけ
自分の思ったことと違っただけ
現実を冷静にうけ止めるほかはない

これからも一番大切にしていきたいのは
やはり「現実」だと思う
これから起こることに対して
期待しない人になりたくない

これからもみんなで希望を語ろう

これからもみんなで明日をつくろう

これからもみんあで未来を見つめていこう
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