エッセイ みどりの丘 〜くらしに「ありがとう」〜

副施設長 大塚美智子が綴ります

働くものたちよ

vol.09

7年も経つと働くスタッフもいろいろなことが起きる
恋愛や結婚、出産など嬉しい報告もある
病気になることもある 交通事故に遭った人もいる

自分のことではなく家族に起こることもある

良い時は問題なくできることも 悪い時はそうはいかない

休みがつづけば他のスタッフに負担がかかる

人生の中で思ってもいなかったことが起きることがある

運命は自分では変えられない 受け止め、乗り越えることで道は開く

誰かのために助け合う仲間でいたい
誰かのために手を差し伸べられる人でいたい

働くものたちが安心して働ける場所
それがみどりの丘であってほしい

鐘がなるみどりの丘のお話しは今日もつづく

そこにいる人の分だけ物語があるから

話が終わることはない

お話しのつづきは来年のこの日に・・・

副施設長 大塚

会うは別れの始まり

vol.08

ショートステイで滞在されていた方が帰宅
すっかり意気投合され、別れの時間が近づく
仲良くなった分だけ寂しさが募る
送る方は涙、涙のお別れとなるが
去る方は笑顔で手を振る
「会うのは別れの始まり、されど再会の楽しみもあり
人生は出会いと別れの繰り返しよ」
人生のなかで幾度となく繰り返された
出会いと別れ そして今再会
どれだけの笑顔があり、どれだけの悲しみがあったのでしょうか

だからこそ言える言葉の重さ
清々しく凛としたお姿

ショートステイでは毎日のように繰り返される
出会いと別れと
お別れの言葉は「お元気で」
相手を気づかいながら、再会を願う

50年振りの映画鑑賞

vol.07

今月の映画鑑賞は「ビルマの竪琴」
2時間を超える上映時間にもかかわらず30人近くの人が集まった

上映会場はカーテンを閉め
大きなスクリーンから映し出される映像は
まるで名画座のようだとの評判
毎月の第3水曜日を心待ちされている方も多い

「50年振りに映画館に行きました。」と94才男性
戦争当時学生で戦地には行っていないが
布団を背負って東京の空襲下を逃げた当時の思い出したと話される

50年の歳月で耳はすっかり遠くなってしまったが
逃げ惑う心配のない平和な毎日に感謝されている

来月の上映が楽しみだ

「クリームあんみつをひとつ」

vol.06

平均年齢87才の施設にいると年齢がわかるなくなることがある
サンデーカフェのある日
クリームあんみつを注文される方がいた

メニューにはないことをお伝えすると
「あら どうなの。じゃあ、あんみつにするわ」と
あまり自然に言われる

角を曲がった2丁目の甘味処に立ち寄ったのでしょうか
買い物帰りに家族の方と立ち寄っていたのでしょうか
仲の良い友達と待ち合わせでしょうか

施設の生活に家庭の風を感じるのは
うれしい限り

ハッピー・バースデイ・トゥユー

vol.05

平均年齢87才の施設にいると年齢がわかるなくなることがある
91才の誕生日を迎えた男性入居者様にお祝いの言葉をかけていると
「あら、あなたって若いのね」と笑うのは97才の女性
「あなただって若いわよ」と笑うのは来月100才を迎える女性
91も97も若いとは・・・
もはや年齢を測る物差しはいらない

車椅子も杖も使っていることなんて問題ではない

大切なのは自分らしく生きていること
大切なことは声を出して笑えること

91才のお誕生日

ハッピー バースデイ トゥ ユー

私のスウィートルーム

vol.04

今の高齢者が生れ育った人には施設の印象はあまりよくない
家族が看るのが当たり前だった時代があり
施設に入るのは家族に看てもらえなかった可哀そうな人たち
そんな背景もある

施設の生活は家のようにはいかないことが多い
「小原庄助さん」ではなくとも朝湯になることもある
食事は見も知らない人たちと一緒
順番で待たされることも多い

家のようにいかないことでもいいこともある
夜中でも呼べばスタッフが来てくれる
家族では喧嘩になることでも他人ゆえ遠慮もあり
ご家族の方には無言でも
スタッフには「ありがとう」が自然に出る

施設での暮らしもまんざらではなくなり
ご家族と外出されお戻りになった時
「私のスウィートルームに連れていって」
とご家族におっしゃったとお聞きする

ちょっとコンビニまで

vol.03

昼下がりになると事務所前の売店が開く
店員さんはいない
お店の名前もない
気にしなければ通りすぎてしまいそう

お菓子やカップ麺や日常雑貨がほんの少し並ぶ
お客様は来たり、来なかったり
いつつぶれてもおかしくない売店

ある男性入居者様がスタッフに
「ちょっとコンビニに行って来るね。」と言いのこしてEVの中へ
コンビニってどこ?

向かった先はあの小さな、小さな売店
行く先は行く人が決めるもの

考えれば施設の中は銭湯や診療所がある
郵便ポストがあれば映画館もある
喫茶店もあれば美容院もある
コンビニもあったのだ

行く先は行く人が決めるもの

日本一小さなコンビニは
来てくださる方のため
今日も開店の時間を迎えた

「あなたのお名前は?」

vol.02

お名前を伺うと「○○です」と
聞きなれない苗字をお答えになる。
誰かしら・・・
そんな人いらしたかしら・・・
スタッフは気づく、旧姓ではないかと

もの忘れが始まると、一番いい時代に戻ることはよくある話

男性の方は会社でバリバリに働いていた頃
当然言葉づかいは当時の肩書きのまま、命令口調になる

女性の方はみんなから頼りにされ忙しく働き回っていた頃
夕方になると「家に帰らなくては」と落ちつかなくなるのは
夕飯の買い出しや支度を一手に引き受けているので
「私がいなかったら誰がやるの」
「みんながお腹すかして困っている」
と家族を案じて気が気でない

娘時代に戻ることもあり
大好きなお母さんのことが心配になる
ご自身で80歳や90歳で
そのお母さんは
100歳をゆうに超えてしまうのはどうでもいい

女性は人の心配をしていることが多く
男性は人の面倒をみていることが多い

キラキラ輝いていた時代に戻りたいと願うのは誰でも同じ

戻れない自分を知るよりは
戻れないことをお忘れのほうが

ひょっとして
幸せなのかもしれない

ラッキーセブン

vol.01

開設7年目を迎えました
					
ラッキーセブン
野球で7回の攻撃を意味するもの
7回になると投手は疲れが出始め
逆に打者は投球に慣れてきて得点のチャンスに恵まれやすいことから
7回の攻撃をこう呼ぶようになった

さて7年目を迎えた私たちは疲れが出始めた投手なのか
得点を狙う打者なのか

思いかえせば
1年目、投球のスピードについていけず空振りばかり
2年目、変化球を見逃して三振
3年目、投手のコントロールが悪くデットボールさえ嬉しかった

7年目、打球に慣れてきた ストライクゾーンも見えてきた
きっと私たちはチャンスを狙う打者
ヒットでもホームランでも打てそうな気がする

開設7年目は ラッキーセブンでいこう
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